体験設計ではユーザーや社会が求めているものを明確にしてそれを実現していくことが⽬標になります。そのためユーザー要求(User requirements)が開発の起点であり、デザイン思考のプロセスでは観察や共感によって明確にしていくことになります。
さらにユーザーを想定するだけではなく開発途中、開発完了の体験設計評価を直接ユーザーがおこなうことが重要になります。
プロトタイピングに対するユーザーの直接評価は得るものが多く、設計プロセス全体でユーザーに参加してもらう仕組みが求められます。
ユーザー観察とインタビュー
ユーザーを観察したり話を聞いたりする⽬的は主に2つあります。⼀つは新しいアイデアを考えるための気づきを得るためです。ユーザーの要求(欲求)を実現できれば製品が成功しやすくなります。
もう⼀つは提供しようとする体験をユーザーが実⾏できるようにするためです。体験設計としてビジョンによってこれまでに無いやり⽅や体験を思い付いたとしてもそれを実⾏するのはユーザーですので、実際に体験できるように使い⽅を⼯夫したり情報を提供したりするサブシステムを含めた全体設計が体験設計に求められます。
UXリサーチに関する書籍も沢⼭でてきており、ユーザビリティテストの頃から基本的な考え⽅は変わっていませんが、観察の範囲や⼿法については変わってきているところも多く改めて学びん直しが必要だと感じています。
ユーザビリティテスト
多くの新製品/新機能ではユーザビリティテストは中間チェックとなります。ユーザビリティテストをどのタイミングで、どのような⽬的でおこなうのかはプロジェクトのプロセス計画の中でも最も重要なものになってきています。
何も無い状態では評価できませんし、製品が完成してからでは修正することができず遅すぎます。どのタイミングでユーザビリティテストを実施できるかは悩みどころですが、簡易的なプロトタイプを⽤いて実施できればより⼤きな改善につながります。
機能性だけに着⽬すればきっちり設計していけば機能するようになります が、不確実なユーザーを含んだ体験システム全体として確実に機能させるためにはユーザビリティテストの実施の結果に対する修正が不可⽋なのです。
インクルーシブデザイン/共創
当事者が問題解決に参加することをインクルーシブデザインと⾔います。漢字で表すと「共創」です。
「ユーザーを含んだシステム」という考え⽅が、体験価値やユーザビリティの実現のために必要になったことから、その確実な実施と効率という観点で当事者が参加する開発プロセスが⽣まれてきました。
最近の事例としてはオリンピックのメインスタジアムとなった新国⽴競技場があります。ワークショップに多様な特徴を持つ⼈が参加することで直接ニーズを発⾒する活動を⻑期間にわたりおこなうことでユニバーサルデザインを実現しています。
ユーザーとの関係を体験設計に組み込む
製品サポートを気軽にできるようにしていくことで多くの問題や困りごとを収集して製品開発に活かしていく⽅法は⼀般によくおこなわれていますが、他にもユーザー同⼠のコミュニティ(ユーザー会)をサポートすることで製品の不満点だけでなく良いところや活⽤事例を聞き出すことができます。
また製品がIoT化していくことでユーザーの活動ログをプライバシーに考慮した形で収集できるようになります。さらにユーザーからのデータ発信(ユーザーコンテンツ)をユーザー体験の主⽬的にできれば感想やノウハウなども発信される情報から読み取ることができます。
シューズメーカーのランニングセンサーは、本来個⼈が⾛るログを取ることが⽬的でしたが、アプリとプロモーションによって参加者同⼠で競い合ったり励まし合ったりするツールへと体験設計を⼤きく変えた事例があります。
ここまでメーカーとの繋がりやコミュニティへの参加意識が⾼まると「OFF 会」や「セミナー」「勉強会」を開催することでより深く関係を作れるようになります。
⾃動⾞やカメラのように「愛⾞」「愛機」と呼ばれるジャンルの製品ではユーザーとの交流が以前からおこなわれていましたが、現在ではネットサービスなどでもフェスと称してセミナーや交流会をおこない関係作りをはじめています。
サブスクリプションという関係性
ソフトウェアは持続的改良がおこないやすく、実際スマホやPCのアプリだけでなくハードウェアに組み込まれたファームウェアでも継続的な改良がおこなわれるようになってきました。
ソフトウェアの改良であっても開発リソースを使いコストがかかっていることから、何らかの形で費⽤を回収する必要がでてきます。最初の販売価格を⾼くしたり、バージョンアップを有償にする⽅法も考えられますが、どちらもユーザーを遠ざける⽅向に作⽤してしまいます。
そこで登場したのが「サブスクリプション」のビジネスモデルです。⼀定の費⽤を払い続けることでユーザーは常に最新の状態で使い続けられるというもので、現在では中古引き取りの仕組みと組み合わせてハードウェアにも適⽤され始めています。
ユーザーの⽴場からも使い慣れたものが最新版として継続して使い続けられるメリットは⼤きく、⻑期的に製品との関係性を持ち続け愛着に繋がります。さらに改良の料⾦を払っているため不満点や改良のアイデアを積極的に提供するようになります。
このようにサブスクリプションのビジネスモデル⾃体がプロトタイピング的なサイクルを⽣み出していると⾔えます。スーパーで野菜を買うのではなく農家とサブスクリプション契約によって季節の野菜を送ってもらうサービスでは消費者と⽣産者の関係をより長期的で強いものにする。そんな事例が増えてきています。
AIを⽣み出すユーザーコンテンツ
ディープラーニングの登場によってAI技術がさまざまな製品の中に使われるようになりました。
ディープラーニングの特徴は、⼤量の事例データを⽤意して学習させることにあります。このデータに多様性があることで、さまざまな場⾯でも対応できるいわゆる「賢いAI」を実現できます。このデータをユーザーから収集することができれば、ユーザーの活⽤⽅法に最適化されるわけです。
ユーザーの利⽤ログだけでなく、活⽤レシピ(ノウハウや動機・感想)と組み合わせることでコンテキスト学習を進められ、よりユーザーにマッチした賢いAIに育てていくことができます。 さらにこれからは、災害や⾮常時におけるリアルタイムな情報共有、個⼈に最適化されたスマートなカスタマイズなど一般化しにくい状況への対応がより重要になってきます。それを実現するためにも普段からユーザーとの繋がりとAIの学習を進めていく仕組みが⼤切です。