VRやMRの活⽤、布やテープを使った利⽤空間の作成など利⽤状況を想定することは体験設計のプロトタイピングの半分ができあがるほど重要です。
実際に⾏ける場所であったとしても、⾃分の⼿で空間を再構築することで得られる情報は⼤きく、家具などの⼩道具は段ボール箱で作ることで⼨法や配置といった環境の理解が深まります。またMy利⽤環境を作ることで常に利⽤状況の中でデザインすることができるようになります。
利⽤状況・利⽤環境が「体験の意味」を決定する
製品が持つ機能がどのような体験的な結果に結びつくかは利⽤状況や利⽤環境が⽣み出す利⽤⽂脈によって決まります。利⽤⽂脈は直接⽬に⾒えないためユーザーの特定(ペルソナ)やアクティビティシナリオを使って準備し利⽤環境の中でアクティングアウトをすることで、総合的に体験してみないと理解することができません。
やってみる前に「想定」として頭で考えることはありますが、それを体験してみると気が付いていなかったことや新しい視点を発⾒することが多くあります。
体験はざっくりとしたタスクリストから⽣まれるものでは無く、⼤きなストーリーと⼩さなアクティビティ/インタラクションが⽂脈として繋がることで作り出される重層的なものだと⾔えます。
利⽤⽂脈は、環境やそこでの活動が情報となり「動機」が⽣まれ「⾏動」が引き起こされ「結果」が⽣じます。その結果が次の動機へと繋がり⼀つの価値を持つ出来事として形成されます。
個々の機能や⾏動から体験が作られるのではなく、⽂脈によって繋がった出来事によって意味が作られ体験価値として意識されます。そのため体験設計のプロトタイピングでは利⽤環境などの製品周辺を⼤切にしなければならないのです。
現場にいくことと同じくらい作ってみる価値がある
ユーザー観察と同じように、実際の現場に⾏くことはインプットとして重要です。その場所が⽇常的にいくことができプロトタイピングに使えるのであれば活⽤しない⼿はありません。
しかしそれとは別に、利⽤環境を⾃分の⼿で作ってみることのメリットが多くあります。まず空間のサイズや配置への理解が深まります。またその環境に⼿を加えることで体験に与える影響を実験的に明らかにできます。(ABテストができる)
またチームで作ることで良いウォーミングアップになります。製品デザインに進む前に会話を促進し共通認識をもつことができます。これからチームがデザインするものは製品設計ではなく体験設計であることを明確にできるからです。これが利⽤環境プロトタイピングの最⼤のメリットかもしれません。
⼀般に利⽤環境は製品より⼤きいため職場でのインパクトが⼤きく、強力なメッセージを発信できます。
利⽤環境を作るのは簡単
空間のサイズは床にテープを貼ったり、布で壁を作ることで動線を検討することができます。温度や明るさはエアコンや照明を上⼿く使うことで再現できます。
机や装置などは段ボール箱を使うと簡単にボリュームを確認できます。丈夫な段ボールを使えばある程度の作業も実際にやってみることができます。上流の体験設計では身体的な行為をおこない相互の関係性を体験することで体験システムの理解を深めることができます。
広い場所を準備する必要がありますが、机と椅子がならんだ会議室の一つを空っぽにすれば良いのではないでしょうか。
オフィスをユーザー体験の場所にする
オフィスには家具や什器が必要です。それを快適で⾼級感のあるものにして社員の福利厚⽣とするのではなく。そのお⾦と空間を使ってユーザーの利⽤環境を再現する場所にしてみると、体験設計のマインドセットをチームに持ち込むことができます。
使いにくいという不満もユーザー体験を理解する活動の⼀部になるからです。特に世界を相⼿にするグローバル企業では世界の⽂化や環境を理解するために世界の現場をオフィス環境に取り入れてみることをお勧めします。
フリーアドレスのオフィスであれば、今日はインドで仕事をしてみよう。明日はアメリカで、という風に体験旅行も夢ではありません。
家を丸ごと⽤意する
ある企業では、⽣活環境にテクノロジーがどのような変化をもたらすかプロトタイピングするため、家を⼀軒⽤意したという話を聞いたことがありま す。
きちんとした環境を⽤意するメリットとして、その中で体験するだけでなくコンセプト動画を作って多くの⼈に共有できることが挙げられていました。
プロトタイピングの為に家を借りることは難しいかもしれませんが、ショールームやトレーニング施設など利⽤環境に近いリソースを上⼿に体験設計に利⽤してみてください。
これからはデジタルで「実空間・実体験」
準備に時間や⼿間を掛けていては上流でのダイナミックなアイデアの創出と取捨選択のスピードに対応することができません。段ボールや⾝体を使ったプロトタイピングは直ぐにやってみることができ、アイデアをどんどん変更したり破棄したりするのがとても簡単で重宝します。 この特徴をさらに進化させてくれる可能性があるのがXR技術です。まだ⼗分に⼿軽だとは⾔えませんが、VRゴーグルやHoloLensが購⼊できるようになりデジタル空間での「フィジカルな」プロトタイピングも可能になってきています。